私が漢検2級に合格したのは、大学3年次でした。
漢検を志した一つ目の理由は、「大学生活で何かを残した証」が欲しかったからです。
数ある資格の中で、漢検2級を選んだのは、一つ目には、母校が文学部であることです。
漢検2級は、高校3年次までの常用漢字の集大成レベルです。
文学部のカリキュラムの中、例えばレポートや論文作成にあたって、漢字能力は必須条件でした。
学科内だけではなくて、日常生活の至る場面で欠かせない漢字リテラシーを身につけるため、今後社会に進むにあたっての一般教養・常識として、漢検2級合格から自信をつけたかったのです。
二つ目には、かつて「漢字博士」の称号を与えられた栄光が残っていたためです。
◆ 小学校時代に漢字博士と呼ばれる
私が小学5年生の時に、毎朝10問の漢字テストが出題されていたのですが、五ヶ月間で合計800問くらいを全問正解できたため、担任の先生から漢字博士の称号を与えられました。
2番目に高得点を取ったクラス一勉強ができる秀才の女子が700問強正解だったため、漢字には絶対的な自信が芽生えました。
齢11歳にして、人生の中で初めて他者から「漢字王TAKA氏」と認められたため、すっかり慢心を覚えてしまいました。
中学校に進学した後も、初めての国語の授業で自己紹介をした時に、教師から、
「漢字博士なんだよね」と、ビックリさせられる言葉をかけられました。
恐らく、小学校当時の功績が担任から引き継がれていたのでしょう。
背景から聴こえる「すごい!漢字博士なんだ」というクラスメイトの声から、恍惚を覚えました。
瞬く間に同級生の間で、「あいつは漢字がすごい出来るらしいぞ」という評判が広がりました。
しかしながら、井の中の蛙は、間もなくして初めての挫折を味わうことになります。
◆ 漢検3級唯一の不合格者
中学3年になって、国語の教師から、漢検の存在を初めて教えてもらいました。
中学卒業レベルは3級に該当していたため、小学5年時以来潜めていた漢字の実力を発揮する機会がきたと、ここぞとばかりにすぐに申し込みました。
本番は、5名の同級生達と、校内で団体受検しました。
私は、この日を迎えるにあたって、漢検の事前勉強は一切せずに臨みました。
小5時の「漢検博士」の栄光が残っていたため、無勉でも十分に受かる自信がありました。
しかしながら、その結果は、衝撃的なものでした。
200点中100点あまりという散々な成績でした。
漢検は単なる読み書き問題だけではなく、正誤書き換え、四字熟語や対義語類義語など、総合分野から出題されるため、漢検問題集を使わずに受けたところで、太刀打ちできませんでした。
さらに、泣きっ面に蜂の結果を知ることになります。
私以外の受検者4名が全員合格したのです。
彼らは、中間・期末テストの成績が、毎回学年で20番以内に入っている優秀組でした。
件の小5の漢字テストで、私の次に漢字の成績が良かった2番目の女子も合格していて、すっかり形成逆転しました。
※この4名は後に、お茶の水女子大、筑波大学、法政大学、明治大学に進学しました。
私は、当時全体の成績は学年で中位くらいだったものの、唯一、かつての栄光である漢字博士の称号によって、漢字能力だけはプライドを保ってきたわけですが、すっかり有名無実になってしまいました。
まさに「アリとキリギリス」を実体験で痛感したような気分でした。
それ以来、しばらくは打って変わって、漢字に対して逃げ腰になってしまいました。